【建設ニュース】日本工営が打音検査に革新 音を数値化するアプリ「DAOOON」で技術継承を加速

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ベテランの“耳”を若手へ。日本工営が開発した技術継承ツールが注目

近年、建設業界では高齢化と若手人材不足が大きな課題となっています。特に1990年代後半から2000年代前半の「就職氷河期」の影響により、現在40代前後の“ミドル世代”の技術者が少なく、企業の人材構成に大きなギャップが生まれています。

こうした中で、日本工営株式会社が取り組んでいる“技術の見える化”が建設業界内で注目を集めています。同社は、ベテラン技術者の「感覚」や「経験」に頼っていた打音検査に革新を起こすアプリ「DAOOON(ダオーン)」を開発。現場の検査業務にすでに導入され始めています。


打音検査とは?──“キンキン”か“ボコボコ”かが判断基準

打音検査とは、岩やコンクリート構造物などをハンマーで叩き、その音を頼りに強度や状態を確認する手法です。
良好な岩盤を叩くと「キンキン」という金属的な音が鳴り、逆に状態が悪い場合は「ボコボコ」と鈍い音になるというのが長年の経験則。

しかし、この判断は技術者の“耳”と“経験”に大きく依存するため、若手技術者が短期間で身に付けるのは難しいという問題がありました。


「DAOOON」が解決する課題──音の周波数を数値化し、視覚で判断可能に

そこで日本工営が開発したのが、「DAOOON」というアプリケーションです。iPhoneなどのスマートデバイスにアプリをインストールし、現場で岩や構造物を叩くだけで、音の周波数をリアルタイムでグラフ化することができます。

  • 横軸:時間
  • 縦軸:音の振幅(周波数)

たとえば、質の良い岩石は「800〜1500Hz」の間でピークを持ち、逆に状態の悪いものは「100Hz」付近で濁った音が出るといった具合です。

これにより、「ベテランの感覚」を視覚的に捉えることが可能となり、若手技術者にとっても非常にわかりやすい指標になります。


実際の現場での活用事例──作業効率も大幅アップ

実際に「DAOOON」は、日本工営が請け負う擁壁調査の4件で導入済み。これまで300回ほど叩いて判断していた作業が、わずか10回程度で済むケースもあり、作業時間や人手の削減にも効果を発揮しています。

さらにGPS機能と連動させることで、打音データとその場所をマッピングし、現場全体の状態を“見える化”することも可能。これは従来の打音検査では不可能だった分析手法です。


今後の展望──AI×3Dデータで未来の検査へ

「DAOOON」の可能性は音の可視化だけにとどまりません。現在はAI技術を活用し、熟練技術者が判断した音の「良し悪し」をデータとしてAIに学習させ、より正確な自動判定を行う仕組みの開発も進行中です。

たとえば、5~10人の熟練者の判断をAIに学ばせ、多数決で結果を出すといった方法が検討されており、より客観的な判断ができる未来が見えてきました。

また、現場技術者がヘッドマウントディスプレイを装着し、岩盤の目視検査を3Dデータとして共有するなど、遠隔・立体的な検査にも発展可能とされています。


ベテランの“暗黙知”を可視化し、若手の成長を後押し

日本工営の中央研究所でこのプロジェクトを率いるのは、入社20年目の古木宏和氏。「ベテランの経験を次世代に伝えるためには、感覚の可視化が必要だ」と話します。

「自分の判断とAIの判断が異なったとき、なぜそうなったのかを調べることで若手にとって大きな学びになる」とも語り、ただのデジタルツールではなく、“成長を後押しする教育ツール”としての可能性も期待されています。


まとめ:建設業界の技術継承に新たな道を示す「DAOOON」

今回紹介した「DAOOON」は、建設業界が直面する課題――人材不足・技術継承・働き方改革――のすべてにアプローチする革新的なツールです。

今後、コンクリートや木材、鉄鋼など、他の建設資材への展開も視野に入れ、建設現場の“技術の継承”に新たな道を示す存在になるかもしれません。

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