2025年、日本の建設・建築分野で高い注目を集める「日本建築学会大賞」および「学会賞」の受賞者が発表されました。日本建築学会(会長:竹内徹氏)は、長年にわたり建築の学術、技術、芸術の発展に貢献してきた専門家たちを讃え、大賞や各種学会賞の受賞者を決定しています。
建築学会大賞に選ばれた3名の専門家とは?
2025年の「建築学会大賞」は、以下の3名の建築専門家に贈られました。
布野 修司(ふの・しゅうじ)氏
- 滋賀県立大学名誉教授/日本大学客員教授
- 島根県出身、75歳
布野氏は、アジアの視点から住宅や都市を研究するという国際的かつ先進的なアプローチを続け、世界の住環境に関する理解を大きく広げました。また、「タウン・アーキテクト」という都市設計の新しい考え方を研究・実践し、地域のまちづくりにも深く関わってきた点が評価されました。
著作には『戦後建築論ノート』などがあり、戦後日本の建築思想や都市空間の変遷について独自の視点で論じた内容は、研究者や実務者からも高く評価されています。
桝田 佳寛(ますだ・よしひろ)氏
- 宇都宮大学名誉教授
- 大阪府出身、77歳
桝田氏は、鉄筋コンクリート建築の品質を高めるための研究を長年続け、耐久性や施工性の向上に貢献しました。現場で実際に役立つ技術の普及にも力を入れており、建設現場で活用されている多くの技術指針の策定にも関わってきました。
著書『良好な鉄筋コンクリート造建築物を造るために』は、現場関係者にとってバイブルともいえる一冊で、教育・実務の両面での影響力も大きなものです。
吉田 治典(よしだ・はるのり)氏
- 京都大学名誉教授
- 京都府出身、79歳
吉田氏は、建築設備の分野で理論と実践の橋渡しを行ってきた第一人者です。特に「脱炭素社会」に貢献する省エネルギー設備の研究において、多くの成果を残しました。建築環境工学の分野での基礎研究を行いながら、実際の設計・施工現場でも応用されている技術を推進してきました。
共著書に『環境工学教科書』があり、大学教育の現場でも広く使われています。
その他の学会賞受賞者とその内容
今回の発表では、大賞以外にも多くの部門で優れた業績が評価されています。
たとえば──
- 論文部門:8件の優秀論文が選定
- 作品部門:2件
- 技術部門:1件
- 業績部門:2件
- 教育賞:教育業績が1件、教育貢献が3件
- 著作賞:5件
- 作品選奨:12件
- 奨励賞:若手研究者などに向けて15件
- 文化賞:3件
- 作品選集新人賞:16件(対象者は19名)
建設業界にとって、これらの賞は今後の建築や都市づくりのトレンドを知る上でも非常に参考になります。新人賞や奨励賞を通じて、次世代の建築人材にも注目が集まっています。
贈呈式は東京と福岡で開催予定
大賞および学会賞の贈呈式は、2025年5月30日に東京都港区の建築会館ホールで開催される通常総会の後に行われます。
また、奨励賞および作品選集新人賞の表彰式は、2025年9月9日~12日にかけて九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)で開かれる「日本建築学会大会」で開催予定です。
建築・建設業界における「今」を知るために
建築学会による表彰は、単なる名誉ではなく、今の建設業界がどこに向かおうとしているかを示す羅針盤でもあります。脱炭素、都市再生、技術革新、教育の充実といったテーマが今回の受賞者からも読み取れます。
これから建設業界で活躍しようとする若手技術者や研究者にとって、今回の発表は学びの多いニュースといえるでしょう。