2024年3月7日、首都高速道路の中央環状線が全線開通から10周年を迎えました。
都心をぐるりと囲むように走るこの高速道路は、全長約47km。
東京都江戸川区の葛西JCTから品川区の大井JCTまでを結び、現在では1日あたり約33万台の車両が利用しています。
この10年間、中央環状線は交通利便性の向上や渋滞の緩和を通じて、なんと年間約8200億円もの経済効果を生み出してきました。
■ 計画から10年に及ぶ苦労の道のり
中央環状線の整備は、東京の交通を円滑にするための大きなプロジェクトでした。
もともと首都高速道路は、1964年の東京オリンピック開催に向けて整備がスタート。
当初は都心部に集中した路線構成でしたが、交通量の増加とともに渋滞が深刻化し、都心をバイパスする「環状道路」の必要性が高まったのです。
建設の歴史をたどると、最初に開通したのは1977年の板橋JCT〜熊野町JCT間(池袋線)。
しかし、その後の西側ルート(青梅街道〜大井JCT間)では、住宅密集地を通るため、騒音・排ガスといった環境問題が大きな障壁に。
当時は現在のように地中を通すシールド工法が一般的でなかったため、高架橋での整備が断念されました。
■ 工夫と技術で突破してきた建設現場
それでもプロジェクトは進み、以下のように技術的チャレンジが繰り返されながら、区間ごとに整備されていきました。
- 1987年:荒川線(葛西JCT〜江北JCT)が開通
→ 河川の中堤を利用し、堤防と一体となった高架橋を建設 - 2002年:王子線(江北JCT〜板橋JCT)が開通
→ 東京都条例に基づく環境影響評価(アセスメント)を初実施
→ パソコンソフトも普及していない時代、手作業の解析やシミュレーションで対応 - 2010年:新宿線(熊野町JCT〜大橋JCT)が段階的に開通
→ シールド工法を初導入
→ 出入口の地上切り開き、内回り後のシールドマシンUターンなど新技術が次々登場 - 2015年:品川線(大橋JCT〜大井JCT)が開通
→ 技術が成熟し、長距離でも完全地下型の整備が可能に
特に山手トンネル(大井JCT〜熊野町JCT間)は全長18.2kmで、日本一長い道路トンネルです。
防災設備が充実しており、開通から現在まで大規模な火災や事故の発生はゼロ。
高い施工技術と維持管理の成果と言えるでしょう。
■ 中央環状線がもたらした「経済と暮らし」への効果
開通によって得られた効果は多岐にわたります。
- ✅ 渋滞の大幅緩和:都心環状線など内側の高速道路の渋滞が減少
- ✅ 事故件数の減少:2000年から2023年までで約60%も事故が減少
- ✅ 物流効率の向上:中央環状線は首都高全体の貨物輸送の約4割を担う
- ✅ 羽田空港へのアクセス改善:熊野町JCT〜羽田空港間が約50分→34分に短縮
- ✅ 救急搬送の迅速化:医療施設へのアクセスが早まり、救命率向上にも寄与
- ✅ 災害・事故時の迂回路確保:都心が通行止めになった際のリダンダンシー機能も強化
例えば、2021年に都心で大規模な交通規制が行われた際も、中央環状線が有効な迂回路として機能しました。
「万が一」に備えた道路ネットワークの確保という意味でも、重要な役割を果たしています。
■ 維持管理も“次世代”へ
中央環状線の整備で培った技術は、今後の維持管理の高度化にも生かされていきます。
首都高速道路会社では、今後の目標として「次の世代に安全な道路を引き継ぐ」ための管理技術の研究・実践に力を入れていく方針です。
■ 若手社員が参加した10周年記念イベントも開催
2024年3月8日、大橋JCTでは全線開通10周年を記念したイベントも開催されました。
現場には開通後に入社した若手社員も集まり、歴史を振り返る動画やライトアップでこれまでの歩みをたたえました。
中央環状線の整備には数十年の時間と多くの知恵と努力が積み重ねられてきました。
それが今、多くの人々の暮らしと経済活動を支えていることは間違いありません。