近年の建設業界の最新トピックとして注目されているのが、五洋建設がシンガポールで進めている大型病院の建設プロジェクトです。国際的な建設需要が高まる中、日本のゼネコンが海外でどのような戦略と技術で挑んでいるのかを知るうえで、非常に興味深い事例と言えるでしょう。
五洋建設は、これまでにもシンガポールの陸上・海上を問わず、多種多様な土木・建築工事を手がけてきました。現在進行中のプロジェクトの中で特に注目されているのが、建築分野では「ECC&NDCS」、土木分野では「N105」です。
大型病院「ECC&NDCS」とは?
現在建設の最盛期を迎えているのが、「ECC&NDCS」と呼ばれる大型医療施設の建設プロジェクトです。このプロジェクトは、シンガポール保健省(MOH)から発注されたもので、以下の2つの医療機関から構成されています。
- ECC(エレクティブケアセンター)
緊急性が低い手術や治療に特化した医療施設。既存のシンガポール総合病院の一部機能を担う形で整備されます。 - NDCS(ナショナルデンタルセンターシンガポール)
一般的な歯科診療に加え、歯科医師の教育機能や、先進的な歯科医療技術の研究施設を兼ね備えた建物です。
規模と構造:都市型高層病院の新しいモデル
この病院は、敷地面積およそ2万平方メートルに、地下4階・地上20階建て、延床面積約15万平方メートルという巨大なスケールで建設されています。建物の最高高さは約113メートルにも及びます。
建物の構造は、RC造(一部鉄骨造)で、プレキャスト工法(PCa)を用いた柱や梁、床板に加え、鉄骨梁、デッキスラブなどを組み合わせた複合構造が採用されています。また、本体工事だけでなく、病院と周辺地域を結ぶ道路整備や、既存病院との接続通路(連絡橋)の新設も行われています。
受注金額は、約806億円(契約当時)という大型案件です。
建設の工夫と技術:効率化と品質の両立
このプロジェクトでは、さまざまな最新建設技術が導入されています。代表的なものとして以下が挙げられます。
- セミトップダウン工法
地下部分を先に構築することで、作業効率を向上。大きな仮設開口部を確保することで、掘削や搬出作業もスムーズに。 - DfMA(製造組立容易性設計)の活用
設備部材(配管や配線ラックなど)を現場近くの工場でユニット化。現場では運搬・据付・接続するだけで済むため、工期短縮と品質管理の両立が可能になります。 - BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用
設計から施工、さらには保守管理に至るまで、3Dモデルを用いて効率的に情報を一元管理。シンガポールでは延床面積5000平方メートル以上の工事にBIM設計が義務化されており、日本よりも導入が進んでいます。
人材とチーム体制:グローバルな建設現場
2022年8月に着工したこの工事には、現在およそ110人が現場に従事しており、そのうち約7割がシンガポール人です。今後は最大で2500人以上の人員が関わる予定であり、まさに国際的な大規模建設プロジェクトと言えます。
BIMのモデリングについては、国内での人材確保が難しいため、インド系の専門企業に外注するという工夫も見られました。
完成に向けて:さらなる加速が期待される工程
現在は、地上の躯体工事や仕上げ工事、設備の取り付けが進行中です。設備の設置が進むと、工事の進捗率が一気に上昇するため、工事所長も「ここからが本当の正念場」と意気込みを語っています。
おわりに:海外で活躍する日本の建設技術
このように、五洋建設がシンガポールで進める大型病院建設は、日本の建設技術の強みと、グローバルなプロジェクト運営力が結集した好例です。最近の建設業界のニュースとしても非常に注目度が高く、今後の完成と活用にも期待が集まっています。