近年、世界的に「脱炭素化」が重要なテーマとなっていますが、日本の建設業界でもその波が本格的に押し寄せてきています。
政府は2028年度から、建築物のライフ・サイクル・アセスメント(LCA)の実施を建設会社などに促す新たな制度を導入する方針を打ち出しました。
このLCAとは、建物が建設されてから使用・解体されるまでの全期間におけるCO₂(二酸化炭素)排出量を見える化する取り組みのことです。
この制度により、建設業界の脱炭素化に向けた取り組みが、より明確に評価されるようになります。
LCAってなに?──建設プロセス全体を通じたCO₂の見える化
LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)は、以下のようなプロセスにおいて発生するCO₂を数値化します:
- 建材や設備の製造
- 建物の建設作業
- 完成後の使用段階(電気・空調など)
- 最終的な解体・廃棄
たとえば、コンクリートを使用する際のCO₂排出量や、高断熱窓の導入によって将来の冷暖房エネルギーを削減できるかなど、素材選びや設計段階から環境への影響を定量的に評価することが可能になります。
制度導入のスケジュールと政府の動き
今回の制度化は、一部の公共建築物を対象に先行導入しながら段階的に広げていく方針です。
- 2024年11月:内閣官房内に「建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議」を設置
- 2025年度:LCA制度の詳細やスケジュールを本格的に検討開始
- 2026年度以降:算出方法の統一化やCO₂排出データの蓄積を進める
- 2028年度:制度の本格導入(一定規模の建築物から段階的に開始)
まずは、建材や設備の製造段階を含む「建設時」に焦点を当て、徐々に建物の使用・解体段階にもLCAの対象を広げていく計画です。
建設会社にとってのメリットとは?
LCAによるCO₂排出量の可視化が進めば、環境配慮型の設計や施工が高く評価されるようになります。
- LCAの結果を用いた建物評価が一般化 → 脱炭素に貢献する建築物の価値が上がる
- 環境に優しい建材・設備のニーズが拡大 → サステナブルな技術や素材に注目が集まる
- 投資家・金融機関による環境評価 → 脱炭素に取り組む企業は資金調達面でも有利に
今後は、LCAの情報が投資判断や有価証券報告書(スコープ3)にも影響すると見られ、建設会社にとっては競争力を高める一手となるでしょう。
例えば、どんな建材が注目される?
政府は、CO₂排出削減効果が大きいとされる主要建材・設備を優先的に整備対象としています。
例えば:
- 再生可能素材を使った内装材
- 省エネ性能が高い断熱材や窓ガラス
- 太陽光発電を活用できる屋根材
- スマートエネルギーマネジメント対応設備
これらの導入を推進することで、設計段階からCO₂削減が実現できます。
建設業界はどう変わる?今後の展望
この新制度により、環境に優しい建築が「当たり前」になる未来が近づいています。
- 脱炭素型の建材や設計が主流に
- 中小建設会社にもLCA対応の波が
- サステナビリティを評価軸にした建築市場の誕生
建設業界全体が「環境に優しいかどうか」で評価される時代に突入しつつある今、制度の動向をいち早くキャッチし、対応を進めることが重要です。
まとめ:建設業にとって「LCA」は避けて通れないキーワードに
2028年度に始まるLCA制度は、単なる環境対策にとどまらず、建設業界のビジネスのあり方そのものを変える可能性を秘めています。
今後の競争力を高めるためにも、制度の進展に注目し、早期対応を図っていくことが求められます。