2025年6月から、建築物におけるバリアフリーの基準が大きく変わります。
高齢者や障害者、特に車いすを利用する方がより安心して建物を利用できるよう、トイレや駐車場の設置義務がこれまで以上に厳格化されます。
同時に、国土交通省はバリアフリー化を進める建築主へのインセンティブとして、車いす使用者用トイレの設置スペースの一部を容積率に含めないという緩和特例を導入。これにより、建築主にとっては、バリアフリー対応をしながらも賃貸可能な床面積を確保しやすくなるメリットがあります。
また、公共建築物を中心に、障害当事者の意見を初期段階から反映する「当事者参画」も原則化の流れに。設計から施工、そして建物の管理に至るまで、多様な視点を取り入れる動きが本格化しています。
義務基準と誘導基準が引き上げに
新基準は2025年6月1日以降に着工する建物に適用されます。
ポイントは以下の通りです:
- 車いす使用者用トイレの設置基準が大幅に強化されます。
これまで「建物に1カ所以上」とされていた設置義務が、「各階に1カ所以上」へ変更され、特に広いフロアでは追加設置も求められます。 - 対象となるのは、延べ床面積が2,000平方メートル以上の特別特定建築物(公共施設、商業施設、病院、駅舎など)です。
これらの新築や増改築を行う際は、原則として新たなバリアフリー義務基準を満たす必要があります。 - 一方、事務所ビルやマンションなど、これに満たない規模の「特定建築物」は、努力義務としての対応が求められます。
容積率の緩和特例がより使いやすく
国土交通省は、バリアフリー化を後押しするため、「第24条特例」と呼ばれる容積率緩和の制度の要件を拡充します。
これまではトイレだけでなく、建物内の複数箇所にバリアフリー対応が必要とされていましたが、新基準では車いす使用者用トイレの設置だけでも容積率の緩和が可能になります。
例えば:
- 車いす用トイレは一般的に2m×2m(4㎡)程度のスペースが必要ですが、
このうち通常の便房分とみなされる1㎡を除いた3㎡分が容積率から除外されます。
この仕組みによって、オフィスビルや商業施設などでもバリアフリー対応を進めやすくなると国交省は期待しています。
設計段階から「当事者の声」を反映
新たな取り組みとして、建築計画の初期段階から障害当事者の意見を取り入れる「当事者参画」が推進されます。
国土交通省は、「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン」を新たに策定し、2025年5月に公表予定。
ワークショップや現地見学などの方法を取り入れながら、設計・施工・維持管理までの各段階で障害者の声を反映していく体制を整えます。
具体的な目標として、2030年度までに、延べ床面積2,000㎡以上の公共建築物において当事者参画を原則実施とする方針も掲げられています。
今後の注目ポイント
- 建築設計におけるバリアフリー化の重要性が一層増す
- 民間建築物でも容積率緩和の活用が期待される
- 公共工事を皮切りに、設計の「透明性と多様性」が問われる時代へ
バリアフリー対応は、「誰もが利用しやすい建物づくり」に直結する重要なテーマです。
今回の新基準によって、建設業界における設計・施工のあり方そのものが変化していくと考えられます。